劔岳点の記

劔岳点の記

劔岳点の記を観てきた。新田次郎の点の記が映画化されたものだ。新田次郎の山岳系の本はほぼ読んでいるが、この点の記も何年も前に読んでおり、しかも当時気に入って何度も読んだので大方の筋は頭に入っているし、いくつかのポイントについても印象深く覚えている。そんな前提でこの映画を見ることになったのだが、本を原作として映画にありがちな改変や想像はかなり少なく淡々を描かれていた。最低限の描かれかたがされていると思っていいのだろうか。柴崎芳太郎役の浅野忠信の演技が最初のうちはかなりぎこちない感じに見えるのだが、それはそれで柴崎の性格をあえて演じているのだろう。長次郎役の香川照之はイメージに合っていた。小島烏水は何冊か紀行文を読んでいたので仲村トオルのイメージは違うものがあった。松田優作が弟のようにかわいがっていた仲村トオル松田優作の息子である松田龍平が生田信として共演したのは、おそらく木村大作のキャスティングによるものだろう。直接からむことはなかったが嬉しかったのではないだろうか。生田信のキャラが原作と離れていたのがちょっと残念であった。ところで、原作にある腐った卵を投げつけられたり、クマを呼んでしまった法螺貝や、立山温泉での冷遇等のエピソードについてはバッサリと落とされており、その分、剱岳を中心として映像に全て振り分けられていた。そういう意味では先にも書いたが、原作を改変せず映像を優先させたことで、映画自体が物語より剱岳を観せる映画になっていたと思う。エンドロールは左から右に流れる縦書きだったので日本人としては読みやすい印象である。しかしエンドロールを読むより、そのエンドロールの映像にすばらしいものがある。ミッドナイトイーグル穂高のエンドロールの映像もよかったが、こちらの劔岳もかなり良い。この映像を山の中で撮るのも大変だったと想像できる。そのエンドロールの最後には新田次郎の息子である藤原正広と藤原正彦の名前があり、最後に新田次郎の名前と原作者に捧ぐとあった。この映画の監督の木村大作は映画八甲田山のカメラマンとしても有名であったので何かつながりがあったのだろうか。ここのところ監督がTVやラジオに出まくって宣伝をしまくっていたので、そこそこの人が入るのではないだろうと思っていたのだが、わたしの行った映画館は 2/3 くらいの入りであった。今日の初日の初回を観たのだが、客の9割が50歳以上の年配の方で杖を持っている人も多く見掛けた。一緒にエレベータに載った婦人もかなりの年配の方であった。館内をざっと見た感じでは、若い人はほんの両手にも満たないくらいの人数であった。そして映画が終った時に拍手があったのにはちょっとびっくりした。次の回を待っている人は多少なりとも年代が下っていたようであった。新田次郎原作の映画では、八甲田山、聖職の碑と同じように良い作品ではないだろうか。確認してみると三作とも木村大作撮影の作品だ。